経 政(つねまさ)
作者不明 季:秋 所:山城国(京都)仁和寺御室御所
※ 平経政(経正)は清盛の甥で、敦盛の兄。琵琶の名手で、八歳から御室の守覚法親王(覚性とも)に仕えて寵愛され、青山という琵琶の名器を預け置かれて愛用しました。一門都落ちの際、 法親王を訪ねて青山を返し「呉竹の 筧の水は変れども なほすみ飽かぬ 宮の内かな(筧の水が流れるように世が移り変っても、ここで過ごした時への愛着が変ることはない)」と詠み別れを惜しみました。行慶は幼少のころからの経政を知る僧です。
仁和寺御室の御所に仕える僧都行慶(ワキ)が登場する。一の谷の合戦で討ち死にした経政のため、法親王の命で、青山を手向けて管絃講(音楽を奏する法要)を行う。
夜更け、灯火のかすかな光に浮かんで、戦装束の若者(シテ)が現れる。琵琶の音を喜び、死後も妄執に引かれてこの世に現れたのを儚く思う。「経政の幽霊」と名乗るが、その姿は陽炎のように現れたり消えたりする。霊は「生死を隔てても、私にはあなたが見えるのに」と「呉竹の」の和歌を引く。行慶は、目に見えぬ亡霊と言葉を交わすことを不思議に思う。
経政は「わたしが人々に名を知られたのも、君のご恩のおかげ。中でも青山は、馴れ親しんだ音色に今でも心引かれます」と言って、青山を奏でる。生前の経政は、道義を守り、詩歌管絃の風雅の道を愛した若者だった。
夜半、にわかに雨が降り出し草木を鳴らす音がして、行慶は楽の音に障るのを気にする。経政は「あれは、月に照らされた松の葉風が吹き落ちる音です」と、音楽にまつわる詩を引用し、琵琶を奏で、昔を懐かしんで舞い、夜遊の時が過ぎることを惜しむ。
第一第二の絃は 索々として秋の風 松を払つて疎韻に落つ 第三第四の絃は 冷々として夜の鶴の 子を思つて籠の中に鳴く 鶏も心して夜遊の別れ留めよ (略) 情声に発す 声文を成す事も 昔を返す舞の袖 衣笠山も近かりき 面白の夜遊や あら面白の夜遊や
経政は突然心を昂ぶらせ、姿を現して、修羅道(戦死者が死後落ちるとされた、闘争に明け暮れる世界)で猛火を浴びて戦い続ける苦しみを見せる。人々にその様を見られるのを恥じ、夏の虫のように灯火に飛び入り、折からの嵐と共に吹き消すと、闇に紛れて消える。
夜更け、灯火のかすかな光に浮かんで、戦装束の若者(シテ)が現れる。琵琶の音を喜び、死後も妄執に引かれてこの世に現れたのを儚く思う。「経政の幽霊」と名乗るが、その姿は陽炎のように現れたり消えたりする。霊は「生死を隔てても、私にはあなたが見えるのに」と「呉竹の」の和歌を引く。行慶は、目に見えぬ亡霊と言葉を交わすことを不思議に思う。
経政は「わたしが人々に名を知られたのも、君のご恩のおかげ。中でも青山は、馴れ親しんだ音色に今でも心引かれます」と言って、青山を奏でる。生前の経政は、道義を守り、詩歌管絃の風雅の道を愛した若者だった。
夜半、にわかに雨が降り出し草木を鳴らす音がして、行慶は楽の音に障るのを気にする。経政は「あれは、月に照らされた松の葉風が吹き落ちる音です」と、音楽にまつわる詩を引用し、琵琶を奏で、昔を懐かしんで舞い、夜遊の時が過ぎることを惜しむ。
第一第二の絃は 索々として秋の風 松を払つて疎韻に落つ 第三第四の絃は 冷々として夜の鶴の 子を思つて籠の中に鳴く 鶏も心して夜遊の別れ留めよ (略) 情声に発す 声文を成す事も 昔を返す舞の袖 衣笠山も近かりき 面白の夜遊や あら面白の夜遊や
経政は突然心を昂ぶらせ、姿を現して、修羅道(戦死者が死後落ちるとされた、闘争に明け暮れる世界)で猛火を浴びて戦い続ける苦しみを見せる。人々にその様を見られるのを恥じ、夏の虫のように灯火に飛び入り、折からの嵐と共に吹き消すと、闇に紛れて消える。
(画像は、2004/09/19 大島能楽堂定期公演より)