世阿弥に学ぼう  大島衣恵

2005年9月21日発行「地域子ども教室」広報誌 『元気情報局』10月号
「君へ」のコーナーに掲載

 みなさん「初心忘るべからず」という言葉を知っていますか?これは約600年前に能を大成した、世阿弥という人が残した言葉です。
 「初心」とは、初めて物事に向かったときの状態のこと、「初心者」と言い換えることもできます。人間はいつでも初心の者なのです。若者は若者として初心者であるし、老人でも老人としてはやはり初心の者なのだから、人間は一生涯何かしら初心者であり続ける、と言えます。そのことを忘れてはいけない、そして問題や困難にぶつかったら、同じ悩みにぶつかったことのある先人たちの知恵を借りてよく考え、工夫を凝らして乗り越えていきなさい、という意味が含まれている言葉なのです。600年も前の人の言葉が現在の私たちの胸にも響いてきて、とても励まされるように思いませんか?
 私は今、能の世界でいろいろな活動をさせていただいています。舞台人としてはまだまだ先の長い修行を積まなければなりませんが、自分の好きな道へ進めることをとても幸せに思っています。しかし、皆さんと同じ年の頃はとても悩んでいたことを思い出します。将来の自分の姿が見えない不安、自分が進みたい方向と進むべき方向がずれているように感じたり……いろいろな事を考えた時期がありました。
 今振り返って、そのことが私にとってはとてもよかったなと思います。悩んで考える時というのは、その答えを求めていろいろなものを吸収できるときでもあると思うのです。先輩や友人の話、また本や映画、音楽や絵でもいい。今の自分に無いものをたくさん吸収していくことで考えの幅を広げることができ、そのときの「初心」の壁を乗り越えることができたと思います。
 「初心忘るべからず」この言葉を皆さんへのエールとしてお贈りします。