第二次世界大戦後の50数年、能楽に携わる者たちは廃墟となった町から自分たちの手で能を普及、伝承してまいりましたが、昨今の欧米主流の文化、教育に押され自力ではだんだん難しい時代を迎えています。
能は約600年もの間、その時代時代で受け継がれてきたものを現在、どのようにつたえていくか、能に携わる我々が真剣に取り組まねばならない問題です。
昨年、能楽はユネスコの無形世界遺産として認められ、文部科学省もようやく日本の伝統文化、邦楽を学校教育のカリキュラムに取り入れるよう指導しました。
長女衣恵は東京芸術大邦楽科の能囃子専攻を卒業後、福山を拠点に活動しながら修行しておりましたが、本人の強い希望で、喜多流シテ方の能楽師としての道を進むことになりました。喜多流では女性に男性と同じようにプロとしての修行の道を開いていませんので、これからは変則的で前例のない道を進んでいかなければなりません。
そういう状況の中で、衣恵が3年前から取り組んでいる学校教育現場での能授業は目ざましい成果を上げていると、親ながら感心しております。ちょうど、総合的な学習の時間が組まれ、学校も適当な材料を模索している時期であり、タイミングが良かったのでしょう。次女の文恵を助手に岡山市立三勲小学校6年生80人や、おかやま山陽高校生を相手に能授業をしています。そのほかに、娘たちは自宅の能舞台を使って、小学生や社会人の人に能楽体験学習を行ったり、出張授業もしたりしているようです。父や私の古い考えでは思いもつかなかった方法でしっかりと能を伝えている娘たちを頼もしく思う今日このごろです。