能の中の子方たち

山陽新聞連載「一日一題」 2002年5月3日

 能の現行曲は約200曲ほどありますが、そのうち子方(子供の役)が出演する曲目は40曲ほどあります。
 子方の役回りは曲目によって随分違います。大まかに分けると、ほんの少しだけ出番があるものと謡(セリフ)も型(動き)もたくさんあるものと舞台に出てから最初から最後まで、座っていなければならないものと3通りくらいに分けることができます。
 おおむね、能の家の小さい子供たちが最初に子方として登場するのは「鞍馬天狗」という曲です。花見に出掛けた平家の稚児として登場します。ご多分にもれず私自身も4人の子どもたちも経験してきていますが、私自身その初舞台の事はほとんど記憶にありません。印象に残っている子方は父久見が1954(昭和29)年にシテを勤めた「望月」です。この曲の子方は親の仇討ちを果たす役で子方の謡も型もたくさんあり、随分とけいこもさせられました。しかいけいこが厳しかった分だけ演能後、観客の方々からお褒めの言葉を頂いたり、子ども心にも充実感を味わい、将来この道に進むことも決意した舞台であったように思います。
 また、子方がたくさん必要なため、なかなか演能できない「唐船」という曲目がありますが、同年配の子方4人、唐子と日本子が2人ずつ登場します。父久見は86(昭和61)年に、内孫4人(衣恵、輝久、文恵、紀恵)を引き連れて演能しました。上の子と下の子が6歳違いなので実現したことですが、自分の内孫たちで演じた事は珍しい出来事でした。
 亡き和島冨太郎先生が、楽屋で「大ちゃん(父の通称)がうらやましいな」とおっしゃっていたのが印象に残っています。