台湾での能授業

山陽新聞連載「一日一題」 2002年4月26日

 2000年の秋、台湾でのアジア太平洋伝統芸術学会に日本の代表的な伝統芸能として私たち能の一行が招かれました。
 広島大学に留学していた林アポン氏の働きかけによるもので、「能の公演に先立ち、台湾の大学で能の授業もしてほしい、一年分まとめて1、2カ月で出来ないだろうか」という要請も頂きました。
 それまで、日本国内の大学でも能実技の、授業をしたことがなかったので、語学の問題もあるし、一度に大勢の学生を指導できるか、ましてや異国の若者たちが本当に能を学んでくれるのか、授業を始めるまであれこれと心配でした。
 ところが9月、台湾芸術大学での能授業を始めた日、その心配は無用のものとなりました。ローマ字でルビをふった謡本を見ながら大きな声で謡う30人の受講生たちは真剣そのもの。
 それから約1ヵ月半、学生たちはシテ(主役)、ワキ、笛、小鼓のパートに分かれて稽古に励み、驚くばかりの上達をとげ、10月14、15日、われわれの能公演の前に、袴能「猩猩」を立派に演じたのです。台湾の学生たちは、われわれが期待した以上のものを能からつかんでくれました。われわれにとっても、日本では出来ない貴重な経験でした。
 01年春には2度目の台湾公演も行い、学生たちとの再会を果たしました。夏休みには熱心な学生2人、チャーリンとチェンチューがわが家にホームステイをして、能の稽古をしたり、観光したりとにぎやかな日々でした。彼女たちは、いずれ近いうちに日本に留学して、日本の文化、特に能についてもっと勉強したいという希望を持っています。こんな若者が少しずつ増えてくれればと願っています。