「伯母捨」シテ 大島久見 |
いつの間にか齢を重ね、傘寿記念能を催すことになりました。
いろいろの事もありましたが、周囲の方々の善意に支えられて、どうやら無事に今日を迎えることが出来ました。愚妻共ども、限りない感慨に耽っています。
祖父七太郎以来、十四世喜多六平太先生を始めとする宗家一門の方々の御厚情に支えられて、今日の大島家があります。
私も多少能楽が分かってきて、舞台に立っていながら自分を無にした純枠な躍動感-或いは法悦とはこんな事かなと思われるような-何とも言えない嬉しさを感ずる事があり、老女物とはこんな心で舞えるのではあるまいかと考えるようになりました。大それた事だとは思いながら、家元先生に伯母捨を舞わせていただきたいとお願いしました処、心よくお許しを得、その上励ましのお言葉まで得ましたので思い切って舞わせていただきます。
流儀では永年にわたり舞われていない最奥の秘曲です。
充分に稽古を重ねて、姨捨山に冴えわたる月の光、その影に溶け込むような能が舞えたならば、どんなにかすばらしいだろうと心はずむ思いでおります。お心静かに御鑑賞下さるようお願いします。