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鑑賞の手引き 月宮殿 (げっきゅうでん)

作者不明  季:初春  所:中国。玄宗皇帝の宮殿

※はじめに、舞台後方に皇帝の玉座を表す一畳台が出される。

 唐の玄宗皇帝に仕える官人(間狂言)が登場。皇帝が賢王で、四季折々の節会(節句や公事の際催す公式の宴会)を怠らず、御世が平和であることを述べ、例年通り今春も舞楽を奏し、鶴と亀が舞うので、今日は帝が月宮殿(月世界の宮殿になぞらえて名付けられた、皇帝の宮殿)に御幸すると告げ、家臣たちに参内を呼びかける。


皇帝(シテ)が、大臣たち(ワキ・ワキツレ)を従えて月宮殿に御幸し、玉座に着く。
初春には、四季の節会の最初として不老門(唐の都洛陽の城門の一つ)で帝が日月の光をご覧になるというので、官人や貴族たちが続々と集まり、その数は一億百万余人に及ぶ。多くの家々で帝を礼拝する声が上がり、その音は天まで響くほどおびただしいものである。
宮殿は宝物できらびやかに飾られている。庭には金銀の砂が敷かれ、宮中には錦が敷き詰められ、扉は瑠璃、橋は光る貝殻や瑪瑙で作られている。池の水際で鶴亀が遊ぶ様は、不老不死の仙人が住むという蓬莱山のようである。帝の恩恵は有難いものだ。
大臣が御前に参り、「例年通り鶴亀に舞わせ、その後月宮殿にて舞楽を奏せられますよう」と奏上する。

月宮殿(友枝喜久夫・衣恵・輝久_1983.11_1)
鶴と亀(子方)が参上し、そろって舞を舞う。万年生きて緑の毛を生やした亀が舞い遊べば、赤い頭の鶴も自分の千年の齢を帝に捧げ、共に庭にかしこまる。すると帝も感興のあまり、立って玉座を降り、舞楽の秘曲に乗ってゆったりと舞い始める。


月宮殿(友枝喜久夫・衣恵・輝久_1983.11_2)月世界の天人の衣のような白い袖や、春の色とりどりの花の袖、秋の時雨に濡れた紅葉のような袖、冬の冴え冴えとした雪のような袖をひるがえし、紫雲のような薄衣をきた高貴な方が数々の舞楽を舞う。霓裳羽衣の曲(玄宗皇帝が月世界に行って見聞し、地上に伝えたという舞楽)を奏すると、皇帝は「山河草木、国土豊かに、千代万代続くよう」と世を祝福する。
舞い終わると、皇帝は御輿に乗り、長寿につながる名の長生殿(宮殿の名)に颯爽と帰っていく。まことにめでたいことである。


月宮殿の白衣の袂 月宮殿の白衣の袂の色々妙なる花の袖 秋は時雨の紅葉の葉袖 冬は冴え行く雪の袂を 翻す衣も薄紫の 雲の上人の舞楽の数々 霓裳羽衣の曲をなせば 山河草木国土豊かに千代万代と 祝ひ給へば 官人駕輿丁 御輿を早め 君の齢も長生殿に 君の齢も長生殿に 還御なるこそめでたけれ